売れるブランドを創るブランディングオフィス

株式会社 蒼天

広報部の仕事と、モータースポーツ・プロモーションを通してのブランディング

広報部の仕事って何をしているの? とか、モータースポーツって仕事なの? と思うかもしれません。
この2つを経験した人はほとんどいません。
なので参考までに書いてみます。
 

三菱自動車広報部へ

大学卒業後、大日本印刷に入りました。配属は海外事業部です。入社して2年足らずで、三菱自動車工業(株)に転職しました。

三菱自動車工業(株)に転職し、広報部に配属されました。父親がマスコミに勤めていたので、大学の時にマスコミ志望だったのですが、結局、就活ではテストでおちて、マスコミには行けませんでした。そんな過去があったので、マスコミと接触する「広報部」を希望したらその通りになってしまって、かなりびっくりしました。というのも、就活では、30社ぐらい落ちていた経験があり、まったくうまくいかず、自分は就活には弱い、と思っていたからです。
 

広報部での仕事

80年代の広報部というと、まだ、日本での広報活動では初期のころです。 広報部とか広報担当のいる会社のほうが圧倒的に少なくて、数十人の広報部員がいる会社となると、自動車メーカー以外では、電機産業とか、化粧品とか、あとは、本当に大企業と言われる会社しかなかったと思います。三菱自動車は20~30人ぐらいの所帯でした。

業務は、社内報などを作る社内広報、経団連の記者クラブを中心に活動する企業広報、自動車雑誌とか評論家への情報を発信する商品広報、あとは海外を担当する海外広報、という区分でした。
まだ、IRは独立していなくて、企業広報の一部になっていました。当時は、メディアと言っても、今のようなネットメディアはなく、マスコミ対策をするのが広報活動、というイメージでした。その点は今とはかなり異なります。

 

最初に担当したのはクリッピング

毎朝、新聞を20紙ぐらい見て、必要な記事を切り抜いて、コピーして社内に配布、という単純作業をしていました。これは、クリッピングという作業です。

ここで重要なのは、三菱自動車に関連した記事があると、対外用のコメントを必ず作っていたことです。マスメディアの記者さんから問い合わせを受けることが多かったので、すぐにコメント案を作って、社長に上げて決済をもらう、という流れです。

この作業は結構ドタバタです。今は作業の流れは進化していると思いますが、記事に対する対外的なコメントを作成する作業は変わらないと思います。
 

記者クラブ

記者クラブというのは、官公庁とか業界団体などに、記者が取材のために拠点として集まっているところのことです。自動車業界の場合は、経団連とか自動車工業会にありました。企業が何か発表したいときに、記者クラブにニュースリリースを持っていくと配布できます。

記者クラブに は、加盟社のボックスがあって、ここにニュースリリースを入れておくと、記者に見てもらうことができます。マスメディアの各媒体まで持参しなくても、記者クラブに持ち込むだけで記者に配布してもらえるので広報部の人にとっては、便利な拠点です。

誰でも持ち込み可能という記者クラブもあれば、限られた企業だけが配布できる閉鎖的な記者クラブもあります。

報道発表会

日常の比較的小さな情報は、記者クラブで発表しますが、ちょっと大きな発表の場合、例えば、自動車メーカーだと、クルマのモデルチェンジ、新型車、新技術、業務提携といった発表があるときにはホテルなどを借りて報道発表会を開催しました。

特に自動車メーカーの場合、クルマのモデルチェンジ、新型車の発表は、会社として社運を賭けた最もメジャーなイベントです。クルマに対するメーカーの力の入れぐあいで、報道発表会の規模は大きく変わりますが、数百人から千人以上の報道発表会が多いです。

発表の1年近く前から準備に入ることが多いと思います。イベントとしてはかなり力を入れるので、担当になるとかなり、負担が大きいと思います。が、それとともにやりがいはあります。どういう発表をすると、どのように報道されるのか、をすべて計算して準備をしています。
 

試乗会

クルマの発表会の場合、報道発表会当日は非常に重要ですが、そのあとに開催される試乗会もかなり重要です。クルマの良しあしについては、この試乗会の評価がそのままクルマの評価になります。そこでの感想がいろいろなメディアに載ってしまうので、相当気を遣います。

走りを強調したいクルマの場合、サーキット試乗会をすることがあります。サーキット試乗会をすると、だいたい、クルマは壊れます。ひどい場合は全損します。
 

自動車メーカーの広報の課題

自動車メーカーの広報部にとっては、クルマのモデルチェンジとか新型車の発表は最重要事項です。それはどのメーカーでも同じです。 しかしながら、新型車の話題は、せいぜい2~3カ月しか続きません。4か月目になると、もう、ほとんど 話題になりません。

広報部の仕事は、「ニューモデル」とか「新型車」とか、常に新しい話題をつくるのことです。 とは言っても、1年前にモデルチェンジしたクルマの話題を作るのはかなり大変です。

セールスマンをやっていてわかったことですが、マスメディアでもネットでも話題になっていない車を売るのは結構大変です。広報部の仕事の貢献度を考える際、セールスマンの後押しができなければ、販売に貢献しているとは言いにくいと思います。
 

モータースポーツの広報

89年からモータースポーツ担当になりました。 ラリーアートという子会社に出向しました。私個人としては、特にモータースポーツファンではなく、ただのサンデードライバーだったので、出向を命じられた時は「なんで自分が?」という気持ちでした。 でも、1カ月もすると意識は全く変わりました。その理由は、この子会社の社長がものすごい人だったからです。この社長は、私と同じタイミングで異動してきた人でした。 何しろ発想が、とびぬけていてしかも、モータースポーツに対する情熱が並外れていました。

社長から、「もっと情報発信を多くしろ」と言われました。 確かに、これまでは、パリダカールラリー、通称パリダカに参戦するときと成績がよかったときだけ、発表していました。
パリダカは年1回です。ということは、年2回発表するだけでした。これではとても広報活動をしていることにはなりません。もう一度活動を見直して何が発表できるかを洗いなおしました。

三菱自動車としてのモータースポーツ活動
参加を支援している活動
主催しているモータースポーツイベント
モータースポーツパーツ、用品
など、いくつもあることがわかりました。

これらをすべてニュースリリース化して発表することにしました。 これで、月間のニュースリリース数が、ほぼゼロから月4~5件ほどに急増しました。しかしながら、この内容な小さな話題を丁寧に拾った、という程度のことです。
 

モータースポーツプロモーション

広報活動としては、月に4~5件のニュースリリースでの発表は、結構多いほうです。 が、何のためのモータースポーツかを、再度考えました。

モータースポーツの目的を考えると
1.性能の向上
2.知名度のアップ
ぐらいしか出てきません。

最初のうちは、この程度でもよいだろうと思っていました。 しかしながら、自動車メーカーがこの程度の目的で年間で○億円のモータースポーツ活動をしているのか、と考えるとかなり疑問を感じます。

○億円の予算をかけてやるのであれば、それなりの成果がなければ、モータースポーツ活動は続かないだろうという懸念がありました。
直属の上司であった子会社社長は、この懸念を一番感じていた人でした。

しかしながら、他の自動車メーカー、トヨタ、日産、ホンダにしろ、広報活動でやっていることは似たようなもので、とても参考になりません。

そこで一番参考にしたのは、アメリカのモータースポーツ。アメリカのモータースポーツは、ショービジネスです。
運営、レース車両、参加チームそれぞれが、新たな話題を提供しようと活動しているので、情報発信量が非常に多いです。この派手さを、参考にしました。
 

年間でのプロモーション計画

三菱自動車の場合は、モータースポーツの参加競技と車種と目的は明確でした。
パジェロ :パリダカールラリー
ランサーエボリューション :WRC(世界ラリー選手権) ギャランの時期もありました。
ミラージュ 日本国内のワンメークレース

クルマのブランドイメージ向上のためにモータースポーツの参加カテゴリーを決めて活動していました。 従って、例えば、パジェロのブランドイメージをあげることと、パリダカールラリーで活躍することはほぼイコールで密接にリンクしていました。これはランサーにしろ、ミラージュにしろ、同じ効果を狙って活動していました。

結構これが奏功し、パジェロとランサーエボリューションは、かなり売れました。特にパジェロは世界的に売り上げが伸びました。

これがモータースポーツプロモーションの成果、ということだと思います。

その成果をあげるために、各参加競技ごとに年間のプロモーション活動のスケジュールを作っていきます。
 

パジェロの場合

例えば、パジェロ :パリダカールラリーの場合はこんな感じです。
10月 翌年のパリダカの参戦体制、スポンサー、日本人ドライバー発表
11月 ワークスとしての参戦体制、参戦車両スペック発表
12月 チーム壮行会

1月 スタート(パリ)
スタートから毎日の結果を配信(フランスからアフリカまでチームの動向を毎日配信) これは、イベント期間中、約20日間継続
ゴール、結果の発表
選手のコメント
帰国記者会見
優勝の場合は、優勝報告会

2~3月 帰国後、毎日メディアインタビュー。これは約1か月続きます。2月の終わりから、国内のトークショウを開催、全国20~30か所。他のイベントにゲスト参加。

4月 翌年のパリダカのための準備活動

5月~10月 テストを兼ねて、世界のオフロードラリーイベントに参加。年5戦ぐらい。

10月 翌年のパリダカの参戦体制、スポンサー、日本人ドライバー発表

ここで去年と同じ活動にもどります。また同じ活動を継続します。

このようなことで年間のオフロードラリー活動のスケジュールを作り、それに合わせて何が発表できるのか、話題づくりを考えます。
この活動を実際には、1990 年代は毎年毎年継続してやっていました。10年以上続けると、世界的に知名度が上がってきていることがわかるようになります。

結果としてパジェロの販売台数は、世界的に伸びました。

このパジェロの成功を全くまねして、プロモーションしたのがランサーエボリューションと WRC(世界ラリー選手権)の組み合わせです。
 

マーケティングPRの考え方

蒼天では、マーケティング PR=販売促進のための PR、つまり売れる PR、と定義しています。

マーケティングPR と、通常の広報活動の違いは何でしょうか? それは、タッチポイント(コンタクトポイント)の数の差、それから売れる仕組みを考えていること、と考えています。

タッチポイント(コンタクトポイント)とは何でしょうか?
それは、対象とする商品情報に触れる機会のことです。マーケティングを学ぶと、単純接触効果(ザイオンス効果)を学びます。その意味は、同じ人や同じものに接触する頻 度が高いほど、信頼し、好意的になる、という理論です。従って、ザイオンス効果から、タッチポイント(コンタクトポイント)をできるだけ多く作れば、商品は売れる傾向がある、ということです。

実は、私はクルマのセールスマンを3年やっていましたが、その時に体験的にザイオンス効果を感じていました。

もう一つの売れる仕組みですが、単にタッチポイント(コンタクトポイント)を多くするだけでかなり販売に有利にはなります。とは言っても、やはり、売れる仕組みを持っていないと、成果は表れにくいです。 売れる仕組みというのは、1.認知→2.興味・関心→3.調査・納得→4.購入→5.顧客フォロー という5段階が仕組みになっていることです。仕組みができていれば、1から5まで自然に流れることになります。

マーケティングPRを実施するときには、タッチポイント(コンタクトポイント)をできるだけ増やすことと、売れる仕組みをつくること、の2つは絶対条件と言えます。よく、新聞や雑誌で紹介されたから売れた、とかテレビで紹介されたから売れた、という話を聞きます。これはその通りだと思います。

しかしながら、新聞や雑誌、テレビで紹介されるのは、通常は1度です。ザイオンス効果でいえば、たった1度紹介されただけです。この場合、紹介された効果は長続きしません。すぐに効果はなくなります。

通常の広報活動では、新聞、雑誌、テレビ、ネットメディアに 1 度の発表でどれくらい掲載されたのかを 重視する傾向があります。しかしながら、販売を軌道に乗せるためには1度の発表で多くの媒体に掲載されただけでは不十分なのです。広報の担当者は、ほとんどマーケティングPRの考え方は知りません。従って、通常の広報活動だけで商品が安定して売れる、ということはほぼ起こりません。

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